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リーフの歴史④ ~逃避行~
「家具から始める家づくり」リーフの猪倉です。
前回からの続きです。
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倒産
母親の何気ない一言が心に引っかかったまま、数カ月がたった昭和43年(1968年)、小学校3年生の夏休みに入った時だった。
子供には詳しい理由が分からないが、経営の多角化のしわ寄せか、大栄家具製作所が閉鎖されることになった。倒産だった。
いつも、トラックにソファを積み上げていた事務所前のスペースに、様々なものが集められ、燃やされていた。
父親のほかには最後まで残っていた社員が数人いたように思う。
その晩、母親はこの時期だいたいそうであったように、堺東のホテルの帳場に出向いていた。家には私含め、二人の妹と弟、そして父親だけが残っていた。
たき火も終わり、人がいなくなり、父は私を除く子どもたちを乗用車に乗せた。私を伴って、自宅の横に掲げられていた墨書された会社の看板を外した。
その隣には、白いプラスティックに「猪倉」と書かれていた表札が、その奥に仕込まれている電球に照らされ煌々と輝いていた。父はその表札に向き合うと、いきなり拳を突きつけた。鈍い音を立てて、表札は粉々に砕ける。下を向き、声を振り絞るように「厚、よう見とき。こんな男になったらあかんで。」と話した。
当時小学校3年生の自分にも父の無念さがよく伝わった。空を見上げると晴れた夜空にくっきりと北斗七星が見て取れた。父と私は妹弟のいる乗用車に乗り込んだ。父は車を発進させた。どこに行くとも何とも言わなかった。
深日港
車を走らせ始めてほどなく、上の妹が泣き出した。車内の異様な雰囲気に何かを感じたんだろうと思う。
「お母ちゃんとこ行きたい~」といって泣き止まなかった。
父は何か声を妹にかけてなだめ、車は堺東に向かう。
ラブホテル前で、帳場から出てきた母親に妹を引き渡した父は、ふたたび、私と下の妹、弟を乗せたまま、車を南にむけて走らせた。
1時間ほど車を走らせたのち、到着したのが大阪のほぼ最南端、岬町にある深日港だった。
本四架橋の完成に伴い、廃止されてしまったが、当時は、ここから淡路島や徳島行きのフェリーが就航していた。
父はどうやら徳島方面に渡ろうとしていたらしい。
ところが台風の接近により、すべての航路が欠航。
四国への道は閉ざされた。
ぽつりと父が「このまま船に持って台風にあって全部沈んでしまったらいいんや。」とつぶやいた。
衣奈海岸
それから父はさらに南に車を走らせた。
深夜遅く、和歌山県海南市の少し南にある海水浴場「衣奈海岸」に到着。
飛び込みで海岸沿いに経営している民宿に声を掛け、部屋を確保してもらった。
翌日から、2,3日間奇妙な夏の海水浴が始まった。
父はほとんどしゃべらない。
私は、妹と弟を連れ立って、一日中海で遊んでいた。
浮輪で海に浮かべながら、「これからどこに行くんだろう。大阪に変えれるのだろうか。」と思いが浮かんでは消え、一日が過ぎていった。
何日か経って、私たちは無事大阪に戻った。
あべのマンション
ただし、帰りついたのは、かっての工場に併設されていた立派な家ではなく、阿倍野区松崎町にある小さなマンションの一室だった。
私たちは半年ほど住むことになったこのマンションのことを後に「あべのマンション」と呼んだ。
母方のの祖母が待ってくれていた。
当時祖母は都島区に住んでいたが、娘(私たちの母親)を助けるべく、来てくれているらしかった。
夏休みが終わり、今まで通り、小学校に通う。しかし今度は、バス通学ではなくて徒歩で十分に通える距離だった。
住んでいたマンションは6帖程度の洋間のついた1DK。
母親と祖母と私たち4人兄弟がその部屋で寝た。
父親の姿はマンションに引っ越してから半年間、ほとんど見ることはなかった。
債権者会議に奔走していたのか、次の拠点を得るために奔走していたのかはわからない。
しかし、昭和44年、1968年の9月から12月まで、ほぼ母子家庭の状態だった。
そして、12月の冬休みが近づこうとする頃、母親に、「冬休みには新しい家に引っ越しするから」と言われた。
冬休みに入る直前の終業式の日、私は担任の先生に言われるがまま、教室の前に立ち級友たちに転校の挨拶をした。
「リーフの歴史⑤ ~インテリア大栄~」へ続く
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*:..。o○ 家具から始める家づくり ○o。..:*
株式会社 リーフ 代表取締役 猪倉 厚
1級建築士・宅建士・インテリアコーディネーター
Facebook https://www.facebook.com/atsushi.ikura
株式会社リーフ
(シャルドネ大阪南港・アールプラスハウス大阪南港)
1級建築士事務所 大阪府知事(ロ)第22510号
宅地建物取引業 大阪府知事(1)第56790号
建設業 大阪府知事(般-25)第140355号
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